90.‘戦う日本’を唱える人たち  神谷湛然 記

/  90.‘戦う日本’を唱える人たち

 台湾有事が起こる前にアメリカ・イスラエルによるイランへの軍事侵攻によってホルムズ有事が起こってしまった。今にでも起こるかもしれないといわれる台湾有事がかすんでしまった感がある。ともあれ、その台湾有事を前提にして中国に対して‘戦う日本’を唱える人たちの著書を読んで感じたことを記したいと思う。
 読んだのは、『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』(武居智久他、新潮新書)と『なぜ台湾有事は日本の存立危機事態どころか存立不能事態なのか』(仲島池哉)である。
 この二冊を読んで決定的な欠落を以下に記したい。
 第一に、台湾有事が起こると台湾海峡、バシー海峡が封鎖されて日本への石油・天然ガスなどの輸送ができなくなるという決めつけである。多少コストがかかるにせよ、台湾海峡、バシー海峡を避けて通行できるはずである。日本や韓国には多少の混乱は出るものの輸送は可能であることをまったく無視していることだ。台湾海峡封鎖は中国にも甚大な海上交通の停滞、ひいては中国経済の混乱をもきたすことを池上寛氏は指摘している。台湾海峡の中国側にはアモイ港、福州港、泉州港の3港は世界100位以内に入る有数のコンテナ取扱量を誇る。それが有事になればその港は使えなくなる。車両とか航空機と違ってはるかに大量かつ廉価で輸送できる貨物船運行停止は中国にとっても大きな痛手になることをまったく見ていないころだ。
 第二に、中国に対する抑止力のためには、非核三原則をやめて日本に核配備する必要があるという思い込みである。戦後日本は日米安保体制のもとでアメリカの核の傘で守られていると以前からいわれている。当時の佐藤栄作首相は国民の核アレルギーを考慮して非核三原則を唱えたが、実質的にはGHQによる占領時代からアメリカによる日本での核兵兵器配備の可能性がいわれているが日本に持ち込まれていることは公然の秘密と思ったほうが自然のように思う。中国もそのことはすでに認識しているはずである。横須賀にある原子力空母エンタープライズやその後を継いだジョージ・ワシントンが核兵器を搭載しないはずがなかろう。それを今頃になって保守系タカ派の人たちや自衛隊幹部が核持ち込みを必要だと騒いでいる。とっくに持ち込まれて当然の暗黙の了解にある日米関係をあえて公然としたいという思惑を感じる。それによってさらに核をつくり・もつという核武装必要論にもっていこうとする世論誘導工作を覚える。とにかく巨大国となった中国に伍していきたいのだろう。ここで私は違った視点から問いたい。日本は核武装しているインド・パキスタンに、なぜ脅威を覚えないだろうか。核不拡散条約に入らず、実質的に核武装国といわれるイスラエルになぜ敵対心を日本は持たないだろうか。答えは明白だ。敵とみていないからである。世界ダントツの核保有国であるアメリカをまったく怖れていないのは友好国かつ最大の同盟国とみているからである。東の正横綱である中国との敵対関係をやめることだ最大の解決策となるということだ。それに対して、ある人はこう言うかもしれない。中国は共産党独裁国家だから民主国家である日本とは馴染めないと。では、なぜ同じ共産党独裁国家であるベトナムを日本は友好国とみなし、TPPにも加入して日本との人の往来や経済関係が活発なのか。敵とみていないからである。私は、非核三原則の保持宣言は平和国家・日本の世界に対する最高のプロパガンダと考えている。中国に対する最大の抑止力は友好国になるということだといいたい。そのためには、台湾に対しては独立志向を抑えて中国を刺激しないよう働きかけ、中国に対しては戦略的互恵関係に立って話し合いの場を作ることだ。そのためには高市首相は与野党問わず親中派の大物議員や実力者を特使として中国に覇権する太っ腹を見せることができるかどうかにかかっているように思う。
 第三に、台湾は中国にとって‘核心的利益’であることを見ていないことである。中華人民共和国は中国の正当な国家だと一方は主張し、他方は台湾が中華民国として中国の正当な国家だと主張している。戦前からの「国共内戦」が今も続いているということだ。台湾独立を認めれば、それは中国にとって忌々しき内政問題に発展することは必然といわれている。すなわち、チベット・ウィグル・内モンゴルなどで独立運動が起こることだ。中国は多数の少数民族を抱えている。しかし、実質的には圧倒的多数の漢民族による支配国家であることは昔からよく指摘されている。共産党に対するというよりも漢民族の専横に対する少数民族の不満のマグマは鬱積していると聞く。ウィグルやチベットに対する人権侵害と弾圧は国家分裂への怖れを中国共産党が強く持っていることの現れといえるだろう。ゆえに、中国は台湾独立を許せないという態度を取ることは必然だということだ。もし、台湾が独立しようとするものならば、中国ないし中国共産党は威信をかけて 政治的経済的リスクを冒してまで香港のように台湾に軍事侵攻する可能性は高いことは想像に固くない。大中国・漢民族の強烈な中華思想を日本はよく自覚しておいたほうがよいと思う。
 とにかく、大切なことは台湾有事を起こさないことだ。起こってからでは東アジア全体の大戦に発展することは明らかだ。しかし、高市氏は彼女の尊敬する故安倍晋三氏のような柔軟外交ができるのか、心もとない。彼女はなんでも自分一人で事を運んで強行突破する性分のようだ。数に物を言わせた予算案の衆院予算委員会・本会議での強行採決には、彼女の独善ぶりが際立って見えている。国家でも会社でもそうだが、独裁者やワンマン経営者は事がうまく運んでいるときは利益を一気に大きくできるであろうが、判断を誤ったときはまわりからの意見を聞こうとする姿勢が弱いので一気に暴走して奈落の底に落ちてしまいがちだ。その典型がドナルド・トランプだと私は思う。‘鉄の女’は独りよがりにならないことを願うばかりである。

1957年奈良県生まれ。1981年3月名古屋大学文学部卒。書店勤務ののち、1988年兵庫県浜坂町久斗山の曹洞宗安泰寺にて得度。視覚に障害を患い1996年から和歌山盲学校と筑波技術短期大学にて5年間、鍼灸マッサージを学ぶ。横浜市の鍼灸治療院、訪問マッサージ専門店勤務を経て、2021年より大阪市在住。
 仏教に限らず、宗教全般・人間存在・社会・文化・政治経済など幅広い分野にわたって配信しようと思っています。
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         神谷湛然 合掌。

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