10.宗教と人間について  (神谷湛然 記)

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  10.宗教と人間について

 2018年7月に麻原彰晃こと松本智津夫は絞首刑にてこの世を去った。2023年3月、大川隆法が病死した。前スタイルを作り出したことで創始者となりえた。者はオウム真理教の創始者であり、後者は幸福の科学の創始者である。創始者の死によって彼の作った団体は衰退してきている。一つの時代の終わりを告げているように私は思った。
 私が安泰寺などで修行生活をしていた1990年前後の十年間において、マスコミや出版界で賑やかに取り上げられ、学生をはじめとした若い人に多くの人気を白していた。書店でも彼らの本が共に競い合うように隣り合ってうず高く山積みされていたのを覚えている。そして彼らの本のまわりにはのストだラムスの大予言などのオカルト本が並べてあった。阿含宗の桐山靖雄のもあったが、オウム真理教や幸福の科学が人気になっていた当時には少し影が薄くなっていた。そして、‘オウム’と‘幸福’は共に政界進出を目指して候補者を立てて選挙活動した。特に‘オウム’は1989年の参院選東京選挙区に麻原彰晃自信が立候補して選挙戦を展開し、街宣車の上で白い着物をの美女たちが長い白帯を振りかざしながら「ショーコーショーコーと唄っているシーンをテレビで見て、異様な印象をもったものであった。幸福の化学はわたしが30代前半に修行生活していた安泰寺に参禅にきていた人が寺に送ってきた幸福の科学の冊子が私にとっての実質的なはにめての接点であった。学生時代に読んだことのある生長の家の谷口雅春の教えに煮ているなというのが第一印象であった。聖書やギリシア神話、神道、仏教などいろいろと混ぜ合わせて教えを展開されていたからであった。古今東西の真髄を集大成したということであろう。また安泰寺下山ののち、住職になっていた先輩僧から大川隆法の講演テープを何本か聞かされて‘カンターレ’が今ここに降臨されようとしている、との高揚した音声が馬鹿に耳にこびりついたものであった。私は昔からすぐ影響をうけるといわれていて、あの時もにわか大川教信者にになりかけたものである。
 宗教運動では創始者が絶対視されることが多いようである。創始者と同等かそれ以上になることを禁じているような節があるように見受けられる。宗教の世界では‘藍は藍より出でて藍よりも青し’はありえないようである。キリスト教のイエス、仏教の釈迦、イスラム教のマホメット、仏教各宗派の創始者(空海・最澄・法然・親鸞・道元・一遍など)、新宗教といわれる創始者たちである。‘オウム’も‘幸福の科学’も例外ではなかった。中国唐代の禅僧臨済義玄の「仏を殺し 祖を殺し・・・」の‘殺仏殺祖’をいえる創始者があまりにも少ないように思う。創始者じしんが絶対視を否定したとしても弟子たちや支持者らが創始者を絶対視し神格化しカリスマに仕立て上げていく。そして教団組織は発展して大きくなったところもあったが、ほとんどは中身がぼろぞうきんのように硬直化教条化して時代から離れていったものが多い。‘オウム’や‘幸福の科学’も同じ道を辿ってしまったようである。
 ただ、創始者自信は‘藍は藍より出でて藍よりも青し’となったことは共通している。イエスは民族宗教だったユダヤ教を超克して世界宗教としてのキリスト教を作り出し、釈迦は民間宗教かつカース制制度を支えるバラモン教を超えて普遍的救済宗教を打ち立て、マホメットはキリスト教や仏教などの偶像崇拝を否定して神への純粋なる信仰を説いて神以外の神格化を戒めた。鎌倉仏教のそれぞれの創始者たちも自信の苦悩からの解放をを求めての探求と実践の中から血肉化した思想をと行動のスタイルを自ら確率させた。新宗教もそうであり、‘オウム’の麻原も‘幸福’の大川も真似事ではなく自身のスタイルを確立させたのであった。問題はこの二人は強烈に自分のコピーを生産しようとしたことであった。
 麻原は‘グル’と称する自分に対する絶対服従を強要し、‘グル’への疑問・批判を一切封じた。大川も総裁と称して同様な行動をした。このありさまは内部批判を一切許さない日本共産党や創価学会とまったく同じである。ものごとには多面的要素があり、人も個個多様であることを無視しているといわざるをえないだろう。
 宗教とは本来、個人に自己存在の意味を問い、自己確立していくものだと私は考えている。宗教は人間に与えられた特権だという人がいる。人間が他の生物と違うのは過大に発達した大脳を持ったというところである。飽きことの知らない脳は果敢に環境に挑戦して生活版図を広げ生活資源を拡大させていくことができたのであった。同時に観念を生じさせ、自分とまわりとの関係について考えることとなった。大脳の前頭野には自分とは別の自分なる‘あなた’という観念を作り出してその‘あなた’と会話する特性があると脳科学はいう。それがひどくなると統合失調症をきたして分裂症に陥るという。小説は脳の自問自答が生み出した所産だという。人間関係・自然との関係、宇宙との関係を模索せずにはおれないものとなったのであった。そして人間を超えた力に対してよきにつけ悪しきにつけ、それを‘カミ’として敬い加護を祈ったのであった。その初期段階の形態がアニミズムという自然崇拝あった。そしてギリシア神話や日本神話のような、自然や宇宙を擬人化した多くの神で説明してこの世の成り立ちに納得して生きようとした。それでも納得できず悩む事故を解放しよううとして生まれたのがキリストであり仏陀でありマホメットなどであった。
 魂の平安は、知識や経験、技術のように自然と次の世代に伝え蓄積していくことができないものである。聖書や経典は文字や知識であってそれを読んで内面がわかるというものではない。月をさす指に過ぎないからである。いくら言葉を尽くしても理解不能である。やり方とポイントを理解して自分自身で内面の扉を開くほかない。創始者に続く人たちはほとんどがそのことを理解できず、創始者の言葉や文字に拘泥して法律のような宗論を展開することに奔走した。神学論や経論はそのよい例であろう。
 曹洞宗の道元門下にあった私はかって道元の著した「正法眼蔵」と格闘したことがあった。第一章の「」現成公案」で早速つまづいてしまった。矛盾に満ちた支離滅裂の文章で自分が分裂症になるのではないかという感じが初めのころは思ったものである。白を黒といったり有るといって無いといったり・・・。いわゆる禅問答である。現在の私はその書は透き通るようにはっきり理解できる。まったく難しいことをいっているのではなく、宇宙や生命の実存のありようをいっているだけである。行く雲流れる水である。創始者たちが辿り着いた内面の有りように辿り着こうと思うならば、一度は持っている観念や概念をチャラにしないと難しいと私は経験から思う。道元の「仏道をならうというは自己を学ぶなり 自己を学ぶというは自己を忘るるなり」であり、念仏道者のいう「白木の念仏」である。いきいきとした生命に触れようとしたいならばいきいきとした生命そのものになる必要がある。そのために創始者たちは、いま行っていることに精神を純化することを求めた。祈りや坐禅などの瞑想、念仏・唱題・行脚や作法、日常生活の一つ一つへの傾注などはその例である。それを徹底しえたものこそが‘藍は藍より出でて藍より青し’となり、臨済の「殺仏殺祖」を獲て文字通りの自己を確率できる。大本教のいうように‘万教同根’ではあるが、万教を統一する必要はなく、それぞれがそれぞれの流儀で徹底すればよいと私は思っている。破邪顕正を叫んで他の宗派や団体に激しい攻撃をした宗教団体が昔の日本にもあったが、その誤りは自分の流儀・言い回しを絶対視したことにあった。ちょうど、着物が唯一絶対の正しい服装といっているようなものではなかろうか。
 宗教戦争というものが古くからある。ユダヤ教とイスラム教との間には争いがいまだに絶えない。イスラムのアルカイダは聖戦と称して9.11
テロをニューヨークに起こした。アメリがのブッシュは神による正義の戦いと称してアフガンやイラクを攻撃して秩序の混乱を与えた。ロシアのプーチンはロシア正教会の大ロシア主義も持ち出してウクライナを侵攻している。自分の着ている服装を強要する様に狂い喜ぶ人々の群れは狂気集団である。ヒトラーのナチズムとどう違うのであろうか。正義を振りかざすものほど胡散臭いにおいが私には感じる。そこには相手の立場に立って考え、対立を解消しようとする努力が欠けていることである。中途半端な信仰をもったものがよく陥る罠のように思う。宗教学者とか聖職者とか呼ばれている人たちがその論理を後押ししているところがある。徹底した信仰を獲た人は偏狭なイデオロギーやナショナリズム・論理に走らない。なぜならそういう人はコスモポリタニズムであり、グローバルな視点を持っているからである。無窮無限大の宇宙から見ればささいなことに血眼になって喧嘩しているありさまは滑稽に見えるばかりであろう。
 お互いを認め合い助け合って難局を乗り越えていこうとするのが、真の宗教人の取るべき立場であり行動であるはずではないだろうか。

1957年奈良県生まれ。1981年3月名古屋大学文学部卒。書店勤務ののち、1988年兵庫県浜坂町久斗山の曹洞宗安泰寺にて得度。視覚に障害を患い1996年から和歌山盲学校と筑波技術短期大学にて5年間、鍼灸マッサージを学ぶ。横浜市の鍼灸治療院、訪問マッサージ専門店勤務を経て、2021年より大阪市在住。
 仏教に限らず、宗教全般・人間存在・社会・文化・政治経済など幅広い分野にわたって配信しようと思っています。
このブログによって読者のみなさまの人生になんらかのお役に立てれば幸いです。
         神谷湛然 合掌。

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