27.再び、臓器移植について  (神谷湛然 記)

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  27.再び、臓器移植について

 私は15年程前に左目に白内障手術を受けてアクリルの人口レンズが入っている。手術後5年間、毎日抗炎症のためのステロイド点眼をした。異物に対する‘拒絶反応’を抑えるためであった。それ以降は手術後のケアは必要なくなったが、網膜色素変性症が基本疾患としてあるので一時的によくなった視力も徐々に落ちていって現在は明暗が分かる程度になっている。この手術はある意味では人口臓器移植手術といえるかもしれない。私の友人に角膜移植を受けた人がいるが、この角膜は亡くなった人から遺志によって提供されたものであった。現在、iPX細胞による角膜移植が阪大で成功したと聞く。理化学研では網膜色素変性症や黄斑加齢変性に対してiPS細胞による移植手術が行われた。また、京大ではパーキンソン病に対して、慶応大では脊髄損傷に対してiPS細胞による神経移植がなされたという。阪大ではiPS細胞によって作製された心筋シートを不健康な心臓の表面に貼り付けると心臓にすぐなじんでシート内にすぐ毛細血管が形成されて心臓は元気に鼓動し始めたという。iPS細胞による移植手術はまだ臨床試験段階であるが、近い将来本格的に実用化されると期待されている。
 iPs細胞によって心臓や肝臓、腎臓、膵臓、肺、小腸などが作製できるようになれば、脳死判定に絡む問題や提供する側と提供される側との間の心理的倫理的問題はなくなることになるだろう。拒絶反応もほとんど問題にならず、当然免疫抑制剤の必要もなくなるだろう。感染症に対しても通常常レベルとなるであろう。脳死臓器移植は過渡期段階といえる。心臓や小腸は、現在、脳死臓器でしか移植できないものとなっているが、一刻も早く脳死移植に頼らない移植技術の確率を臨みたいものである。
 生命はそれぞれ独自の生命体として生存している。そのために免疫機構を持っている。白血球やリンパ球・マクロファージ(単球)・T細胞やナチュラルキラー細胞などさまざまな免疫細胞が働いて自分の体を守ろうとしている。内に自分のものではない自分とは異質なものである他人の臓器を組み込むということは、自然の摂理に反していると言わざるを得ないではなかろうか。移植によって命を伸ばせるのは本人にとっても周囲にとっても喜ばしいことではあるが、通常人程度までには至りにくいと統計学的に言われている。前章で引用した記述の通り、術後年数とともに生存率が低下している。仮に20歳に脳死ないし生体臓器移植を受けたとしたとき、60歳、70歳まで生きるであろうか。その間ずっと免疫抑制剤の毎日12時間ごと服用と感染症にかからないためのシビアな戦い(マスク着用・刺身や寿司などの生食禁止・ペット禁止など)の連続であるまた、免疫抑制剤の副作用として高血圧・糖尿病などの生活習慣病、ガンが発症しやすく(ガンは通常の2.5倍といわれる)、インフルエンザなどにもかかりやすくなるという。不自然な体のなせる業(わざ)であるといえる。10年生きられたら上出来、20念生きられたら驚異の上上出来といわれる臓器移植の世界である。自家移植ではない‘他家移植’の呪いは、独立した独自の生命体として大自然から与えられた掟に贖う現代科学の姿を私は見てしまう。
 心臓血管バイパス手術は本人自身の大腿部にある大伏在静脈もしくは胸骨裏に走る内胸動脈の一部を切り取って冠状動脈の問題箇所にバイパスとして結合するものであるが、動脈の場合の10年開存率は90%以上であり、ほぼ一生機能できるとされるのに対し、静脈の場合の10年開存率は60%以下だといわれる。静脈は血管の性質上アテロームが生じやすく、10年経過すると狭窄して詰まりやすくなるという。現在ではほとんどが動脈血管を用いたバイパス手術になっているという。自分の体を使う自家移植なので免疫抑制剤の必要はないが、用いるものによって述語経過が異なることがあるということである。
 自家移植で済むならそれで行いたいというのが、移植医の本音ではなかろうか。免疫抑制剤が不必要になるだけでだいぶそれによる副作用や感染症への対策をあまりしなくてもよいことになるからえある。iPS細胞による本人由来の臓器が作製できれば臓器移植の世界は大きく発展するにちがいない。‘他家移植’を受けた人は移植された臓器は一生他人のものであり自分のものにはできないということをよく認識した上で、術後10年、運よければ20年生き延びることをよしと思わねばならないだろう。‘私はあなたのものではない、私のものだ’。他人から提供された臓器はそう訴えているように思うのである。

1957年奈良県生まれ。1981年3月名古屋大学文学部卒。書店勤務ののち、1988年兵庫県浜坂町久斗山の曹洞宗安泰寺にて得度。視覚に障害を患い1996年から和歌山盲学校と筑波技術短期大学にて5年間、鍼灸マッサージを学ぶ。横浜市の鍼灸治療院、訪問マッサージ専門店勤務を経て、2021年より大阪市在住。
 仏教に限らず、宗教全般・人間存在・社会・文化・政治経済など幅広い分野にわたって配信しようと思っています。
このブログによって読者のみなさまの人生になんらかのお役に立てれば幸いです。
         神谷湛然 合掌。

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