59.谷川俊太郎の「生きる」を読んで  神谷湛然 記

/  59.谷川俊太郎の「生きる」を読んで

    *    *

  生きる
          谷川俊太郎

生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみすること
あなたと手をつなぐこと
生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと
生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ
生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと
生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ

    *    *

 私は、最近、これまでブログで言ってきた‘宇宙生命’について、現代科学では根本的にどう考えているのか気になっていくつかの素粒子論や宇宙物理の教養本を読んだ。そして、思ったことは、人間感覚では理解しがたい自然の奥深さと不思議ないのちの働きということだった。
 ‘すべての物質は原子でできている’と昔はいわれた。今やその物質は宇宙全体のわずか4%に過ぎず、残りは73%の暗黒エネルギーと23%の暗黒物質でできているとされる。‘暗黒’とは、存在は確実に推定されるが実体が未だにわからないがゆえにそう呼ばれている。しかし、そういう暗黒世界がないと、私たちも含め一切のものが十億分の一秒後にバラバラになって素粒子になるという。私たちの体の中にも私たちのまわりにもこの暗黒世界のおかげで形あるものとしていのちしているのだということである。そして、頑丈な巨大な岩であろうと世界で一番固いといわれるダイヤモンドであってもその原子のなかにある素粒子は光速なみにはげしく常に飛び跳ねているという。原子を地球の大きさにたとえると、その中心にある原子核は野球のグランドほとの大きさに相当し、電子が地球の上を回っているといった具合であり、一切の物はスカスカだらけという指摘は私にとって一種の驚きを感じたものだった。
 素粒子というが、実は粒というよりは事象みたいなものらしく、物の基本を作ったり、プラスとかマイナスの電荷を持ったり亦は持たないで中性になったり、いろいろな力を作ったり重みを与えたりなどといろいろと変化。することがあるようだ。原子よりも小さい一個のものから一気に膨張・発展してきたという今の宇宙物理学の話は、‘無’というエネルギーから一切の物が作り出されたという説は、私たち自身が‘無’からの生まれであり、宇宙の子そのものだと思い知らされる感がしたものである。
 そうしたなかで、先日(24年11月)に詩人の谷川俊太郎が亡くなったのをニュースで知った。私は彼の作品をまったく読んだことがなかったが、彼の代表作で出世作でもある「二十億光年の孤独」という紹介に引かれて数日前に初めて彼の詩を読んだ。そして印象に残った一つが冒頭に掲げた「生きる」という詩だった。
 私は、これは宇宙の歌だと思った。そしてまさしく法華経の唱える‘諸法実相’であり、‘法華転法華’だと。いのちの無限のつらなりと輝きのなかに私たちはいだかれてあることをこんなにもわかりやすく平易な表現をした彼の才能に舌を撒くばかりだった。
 谷川は人が未だに互いにいがみ合って殺しあっているのを悲しんで、「ごうまんすいる / ホモ・サピエンス / ごうまんすぎる」と歌った詩もあった。この地球上に人間がいなくなるほうがむしろ平和ではないのではないかと慨嘆していた。
 私たちのいる宇宙はますます加速度的に膨張を早めて最終的には風船がわれるように破裂してすべてが素粒子になって散らかっていくと推測されている。‘宇宙の子’として今こうして私たちがあるということが、まさしく‘神からの恵み’としていただいてあると言うしかない儚いいのちの重みを宇宙や世界の真相を解き明かそうとする先端科学は教えているように思う。

1957年奈良県生まれ。1981年3月名古屋大学文学部卒。書店勤務ののち、1988年兵庫県浜坂町久斗山の曹洞宗安泰寺にて得度。視覚に障害を患い1996年から和歌山盲学校と筑波技術短期大学にて5年間、鍼灸マッサージを学ぶ。横浜市の鍼灸治療院、訪問マッサージ専門店勤務を経て、2021年より大阪市在住。
 仏教に限らず、宗教全般・人間存在・社会・文化・政治経済など幅広い分野にわたって配信しようと思っています。
このブログによって読者のみなさまの人生になんらかのお役に立てれば幸いです。
         神谷湛然 合掌。

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