/ 106.戦争と‘反省’
今年の戦没者追悼式で高市首相は、石破前首相が13年ぶりに復活させた‘反省’に言及しない追悼文を述べた。ちなみに、天皇は前天皇の上皇にならって‘反省’に言及されている。ある保守系のジャーナリストは、高市首相が安倍・岸田路線に戻って‘正常化’したと喜んでいた。
私は戦争に対する‘反省’ということについて、一般的な理解に疑問を持っている。
保守的な人たちは、戦後もう何十年も経っているのだから子や孫にも押し付けるような‘反省’の呪縛からのがれて終わりにすべきだと言っているようである。それに反して、リベラルといわれる人たちは、あの戦争はけっして忘れてはならないから‘反省’し続けなければならないと言っているようである。これら相反する見解の共通点は、‘反省’の対象を戦中に‘大東亜戦争’といわれた「アジア・太平洋戦争」に敗北した‘大日本帝国’の行為としていることだ。私は、こういった‘反省’は間違った‘反省’になるのではないかと考える。現に戦勝国には‘反省’がみられず、‘反省’が敗戦国ばかりにみられるありさまに大きな不条理を覚えるのだ。
第二次世界大戦は所詮、世界の版図を先取していた帝国主義勢力から、先取に遅れた後進帝国主義勢力が版図を奪い取ろうとする帝国主義争ではないかと考える。その植民地再編戦争で日本は一時期に、中国・満州・台湾・朝鮮半島からフィリピン・インドネシア・インドシナ半島・マレーシア・シンガポール・ミャンマー・ニューギニア、そしてメラネシア・ミクロネシア、北方では千島列島からアラスカに迫るアリューシャン列島という、西部・中央部太平洋の島々を占領して、まさしく東アジア・東南アジア・太平洋の西部一帯を支配する文字通りの‘大日本帝国’になったのだった。これらは大半は米英仏蘭という欧米列強の植民地だった。日本は彼らを追い出して支配国となったのだった。しかし時が経つにつれて戦況の悪化とともに最後は日本本土だけになってアメリカに占領されてしまったのだった。
‘反省’は敗戦国のみがすべきものではなく、戦勝国もまた‘反省’すべきではないだろうか。戦勝国は‘反省’しないがゆえに、戦後のアジア・アフリカでおこった民族自決を求める独立運動を抑圧しようとした。特にアメリカは容赦もなく戦後もベトナム戦争をはじめ幾度もあちこちで戦争をおこしている。傲慢としか言いようがないと思う。
戦勝国だろうと敗戦国だろうと、戦争そのものに‘反省’していく姿勢こそが必要ではないかと思うのである。その‘反省’が歴史ではないだろうか。
古代ギリシアでおこったペロポネソス戦争は今日でも私たちに多くの示唆を与えている。歴史は繰り返すといわれるが、相も変わらず、‘反省’しない愚かなる人類はつまらぬ意地っ張りでもって戦争をこれからも続けるのだろうか。勝敗国に関係なく、戦争そのものを‘反省’して二度と戦火を繰り返さない、繰り返させない努力をすべきではないかと思う。
日本国憲法第9条第1項には、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と記されている。国際紛争を解決する手段として武力を用いることを永久に放棄して、相互信頼の醸成と外交による平和的手段でもっ問題を解決しなければならないということである。
ペロポネソス戦争は、アテナイとスパルタとの相互不信の深化と軍備拡張競争の末に、ギリシアの覇権をめぐる古代の世界戦争となったのだった。しかし、勝利したスパルタも長期にわたる戦争による疲弊で、のちにアレクサンダー大王率いる北方のマケドニアに征服されたのだった。
アテナイとスパルタの関係は、今日の中国と日本ないしロシアと欧米を後ろ盾とするウクライナとのように思える。どちらも話し合いすらできない相互不信と軍拡競争である。信頼を得るのには努力がいるが、信頼を壊すのは簡単である。個人間にしろ国家間にしろ、この論理は一貫している。私たちの日常でも、友達や近所づきあい、仕事や作業、売り買いや契約、車や列車・飛行機・船などの交通機関の利用など、互いの信頼と信用の上に成り立っている。国家間においても相互信頼と信用があってはじめて平和と安心が得られる。どこかの国の大統領のような、恫喝と威嚇を振り回しているようでは、たとえ紛争がおさまったとしても一時的に過ぎないことは当然である。なぜならそこには信頼と信用がないからだ。ペロポネソス戦争という愚かな行為を今日でも繰り返している人類の浅はかさを自覚すべきではないかと思う。
今日(8月20日)のニュースで、アメリカがICC(国際刑事裁判所)の赤根智子所長を制裁対象に入れたことを耳にした。ICCは、イスラエルのネタニアフ首相をガザでのイスラエル軍による大量虐殺行為を理由に争犯罪として逮捕訴追した。これにイスラエルの擁護者であるトランプ米大統領は反発したようだ。中国のウイグル弾圧に対するICCの操作の不十分さも理由に挙げているが、ネタニアフ逮捕請求が本筋だろう。ところで、ICCはロシアからもすでに制裁対象になっている。プーチン露大統領をウクライナでのロシア軍による大量虐殺の罪で逮捕状を出しているからである。ICCには世界の125の国と地域が加盟している。ところが、アメリカ・中国・ロシア・イスラエルは加盟していないのだ(他に未加盟国のなかには、インド・フィリピン・インドネシア・ベトナム・エジプトがある。中東の加盟国はヨルダンとパレスチナ国の二か国だけである。)。ICCに憤慨しているのはこの未加盟国だということである。国連常任理事国五か国のうち米中露の三か国が未加盟というのは、戦争犯罪や人権侵害に対して大国は自由と人権を守ろうとする国大社会に反抗しているということだ。高市首相は、アメリカによる赤根氏への制裁措置にただ一言、「残念だ。」だけだったようだ。なぜアメリカに強く抗議すると言わなかったのか。高市氏が‘戦火を二度と繰り返させない’というなら、国際協調と平和のために日本人初の所長となっているICCを積極的に擁護して、ICCに憤慨する大国を強い姿勢で糾弾すべきではないだろうか。それができないのなら、彼女は口先だけで‘戦火を二度と繰り返させない’と言っただけだということになるのではないだろうか。高市氏は戦争扇動者ではないかといわれても仕方ないだろうと思うのである。

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