/ 108.‘日本列島を、強く豊かに’に思う
先日、『ハト派の嘘』(高市早苗・櫻井よし子共著 産経新聞出版 2022年)を読んだ。櫻井よし子氏主宰の言論テレビに出演した高市早苗氏と司会役を務めた櫻井よし子氏との対談をもとに編集された本である。高市氏が当時の岸田内閣のもとで、自民党の政調会長として活動していた頃である。この本を読んで、高市氏のキャッチフレーズである‘日本列島を、強く豊かに’の具体的な姿が浮かび上がってきたと思ったのだった。
まず、‘強く’の中身は国防の強化ということである。‘国民の生命と財産、日本の領地・領土・領海を守り抜く’と高市氏はよく力説する。そのためには、国防の強化を図ることであり、その強化の中身は、専守防衛と非核三原則をやめるということである。相手国の攻撃を封じ、かつ相手国にいる邦人を保護するためにも相手国の領域に入って軍事を遂行する必要があると言っている。宇宙空間でも相手国の軍事衛星を電磁波攻撃ないし破壊も含めて宇宙戦争する必要があり、今や日本国内の領域だけで対処しようとする専守防衛は時代遅れだとのことである。また、核保有している中国やロシア・北朝鮮に対抗するためには核でもって対抗し得るのであって、通常兵器だけではいくらあっても無力だと主張している。少なくとも非核三原則のなかの‘もちこまず’をなくして日本に核を置けるようにしないといけないという。よりはっきりしたのは、高市氏と櫻井氏には、隣国である中国とロシアとは良好な関係を築いていこうとする発想がまったくないことだった。中国はウィグル・チベット・内モンゴルで不当な人権弾圧を行い、ロシアは戦前に日ソ中立条約を結んでいたにも関わらずに一方的に条約を破って日本に侵略して樺太や北方領土を奪ったような無法国家だから信用できないという。故安倍晋三元首相がよく称えていた‘戦略的互恵関係’を促していこうとした姿勢は彼女らにはまったく伺えなかった。なお、戦前の日ソ中立条約をソ連が一方的に破ったと彼女らは言っているが、歴史的には、1945年2月のヤルタ会談時に、アメリカのルーズベルトがソ日ソ中立条約を理由に対日参戦に消極的だったソ連のスターリンを説得して、樺太・千島列島をソ連にあげるから北方から日本に軍事攻撃してほしいというヤルタ秘密協定を結んだことにあった。この秘密協定はソ連の対日参戦を臨んだ中国・蒋介石の意向を受けて、ルーズベルトがスターリンに働きかけたものだった。「秘密」としたのは、1946年4月まで効力があった日ソ中立条約を鑑みてのことだった(なお、ソ連はその条約の効力が切れる1年前にあたる1945年4月に日本に日ソ中立条約の破棄を通告している。その時点から日本政府ないし軍部はソ連の対日参戦は近いとみていたようだ。)。非難すべき相手はソ連ではなく、アメリカ・ルーズベルトであり、中華民国の蒋介石ではないだろうか。それでも、国際社会はソ連の対日参戦を第二次世界大戦を終わらせたということで高く評価している。なぜなら、原爆投下よりも8月9日のソ連の対日参戦開始が決め手となって翌10日にポスダム宣言受諾を米英に伝え、8月15日のポスダム宣言受諾告示とともに天皇による終戦の詔勅となったのだった。そして、ソ連は日本の植民地同然であった満州国にも侵攻して占領したが、日本の降伏後まもなくして満州国を当時の中国に返還して満州国から完全撤退している。彼女らの歪曲された歴史認識の一例を見る思いである。
次に‘豊かに’である。軍民両用技術研究・開発を積極的に進めることによって、その後に民間にもその技術が転用されて経済も暮らしも豊かになると言う。電子レンジもインターネットも元は軍用技術から来ており、アメリカでも中国でも軍民両用技術の研究開発は当たり前だ、防衛研究する研究者を抑圧して排除する日本の学術会議は解散して当然だということである。なんとも勇ましい‘タカ派’ぶりである。この本では高市氏は国防費をGDPの2%にもっていきたいと述べていたが、今日の彼女の言動と合わせて見ると、防衛予算をもっと増やして軍事への研究技術開を予算を十分に確保したいとしている。軍事的観点を優先した軍事経済を目指しているように思われる。2%といわずにもっと増やしたいのが本音であるようだ。そこから国民はおこぼれをもらって生活が豊かになると考えているようにしか思えない。
高市氏はまた、この『ハト派の嘘』のなかで、ロシアは国際法を破ってウクライナに侵略戦争していると糾弾する。それに反して、大東亜戦争は天皇が国家意志として開戦の詔勅で「自存自衛」を宣言されたものであるから自衛のためであって、侵略では全くないとしている。この論理だと、ロシアのプーチン大統領はウクライナにいるロシア人の保護とロシアの自衛のためにウクライナに軍事作戦を行うと宣言したのだから、ロシアにとっての自衛戦争となるはずである。彼女らの言う国際法遵守がいかなるものか怪しいものがある。実際、高市氏はアメリカによるベネズエラ侵攻やイスラエルと結託してイラン奇襲攻撃して始まった中東戦争には見て見ぬふりをして黙認している。イスラエル軍によるガザ市民虐殺にも何も言わないでいる。アメリカのトランプ大統領が国際刑事裁判所ICCの赤根所長に対する制裁発動を発表した時、高市氏は非難もせず、ICCを断固支持してICCを守り抜くともまったく言わないでいる。「残念だ」の一言である。立場によって国際法を持ちだしたり国際法から外したりしている。無節操な政治家だと言わざるを得ないと考える。「行動は思想の偉大な暴露者である」である。
9月18日に、高市改造内閣が発足した。改造というが、内閣の骨格である官房長官・財務・外務・防衛と自民党の要である幹事長・政調会長・選挙対策委員長・副総理は留任だった。周辺部が入れ替わっただけで今までと同じという感じである。それどころか、‘裏金問題’で役職停止を党から受けた人や公選法違反の疑いのある人が入閣しているので‘スキャンダル内閣’といわれそうである。ところで、高市氏の政敵といわれている2人が野に下った。財政規律を重んじる親中派といわれ、高市氏の最大のライバルと目される人と参院のドンといわれている人が人事から外された。党内の権力闘争の火ブタが切られたとある識者はいっていた。
こんな改造内閣発足の会見で、高市氏は‘日本列島を、強く豊かに’のキャッチフレーズを再び協調した。その‘強く’‘豊かに’の中身が前述ししたものであれば、日本は本当に大丈夫なのか心もとない思いがする。
国内では、円安の進行もあって物価高はおさまらず、地震や豪雨の災害が続いている。上下水道や道路・橋・トンネル・鉄道など、あちこちのインフラが老朽化して更新が手遅れになっている。貧富の格差も拡大している。国家財政もすでに火の車にもかかわらず、‘積極財政’を叫んでいる。戦前に積極財政と称して国債を歯止めなく発行してGDPに迫る軍事予算を計上して、後に結局は国家破産した道を再び辿りはしないか心配である。
、 国外では、アメリカのトランプが高市氏の大嫌いな中国に接近し、そのトランプはイランとの泥沼の戦争に夢中になって日本にも石油が入りずらくなっている。また、先述したように、国際法による秩序を守る国際刑事裁判所の解体をもトランプは叫んで、その日本人女性所長をも制裁に入れた。それに対して高市政権は実質的に黙認している。トランプばかりに目を向けている。日本はアメリカの属国なのかと言いたくなる。中国・ロシアとのパイプを作ろうという姿勢も見られず、相も変わらず、中国・ロシアの脅威ばかりを煽り建てて、軍事予算拡大に忙しい様である。
こんな内憂外患に具体的にどう対処するのか示さずにバラ色の‘強い’日本のイメージを臆面もなくバラまいている。元テレビキャスターらしいイメージ戦略は流石だとは思うのだが・・・。
対決姿勢を前面に出す‘主戦論’から、協調と融和を押し進める平和国家にしてもらいたいものだと思うばかりである。

コメント