103.愚かなる人間  神谷湛然 記

/  103.愚かなる人間

 前稿(「102.繰り返された‘想定外’」)に続いて記したいと思う。
 あのイオンモール熊本爆発事故で亡くなった人はすべてテナントとして入っていた専門店の従業員だったという報道があった。地震時に施設内にいた約三千人ほどの客全員とイオン正規社員すべては無事で、死者はいなかったという。
 亡くなったテナントの従業員たちのなかには、地震発生後すぐに外へ避難したのに、テナント会社の命令で店の売上金を金庫に入れるために施設内に再突入した人がいたようである。大手アパレルのテナントでは、会社の規則に反して店員が個人のスマホや荷物などの貴重品を取りに再突入して爆発にまきこまれて亡くなったという記事があった。また、ある飲食店のテナントでは、店長と共に再突入して店内のブレーカ落としとガス栓閉め・レジ金の金庫への保管などの作業をした後に爆発寸前に脱出して間一髪で命拾いした店員の話があった。
 大きな地震ではまもなくして余震が発生することがよくある。施設の外観は大丈夫そうに見えても、施設内には漏水や断線、ガスなどの配管の破損が起こる危険性は高くなりやすい。再突入して無事に外へ脱出できた人の話のなかには、再び脱出する頃には天井から水漏れがあって、ガスのような異臭がしたという報道があった。
 ある識者は、平時感覚に慣れっこになって、災害という有事に対応できにくかったと言っている。そうだろうかと私は疑問に思う。十年前の2016年4月にも熊本で大きな地震があった。一昨年(2024年)元日には能登地震があった。阪神淡路大震災、東日本大震災をはじえ、日本ではここ最近は北海道から沖縄まで全国あちこちで地震が発生している。地震大国・災害大国といわれる日本においては平時が有事ではないのかと思うのである。
 しかし、レジ金を金庫に入れるために店員に再突入を命じたあるテナント会社の対応は、‘命よりお金が大事’だということかと、あちこちから非難の声が殺到しているのは当然だろう。後日、遺族から会社側に刑事訴訟と民事賠償金請求の訴えがされる可能性があるだろう。それでも、会社の命令がないのに個人の判断でやすやすと再突入している人がいたことは、再突入を許しているイオンモール側の防災・警備体制に根本的な問題があるように思えてならない。消防士のようなプロの防災対応者でないしろうとが再突入することの危険性を認識しえなかったのだろうか。そこには、激しい地震だったけれど、建物は大丈夫そうだから店員なら再突入は構わないだろうという安易な認識があったといわれても仕方ないと思うのである。そして、再突入した人は再突入した他の人たちの姿を見て、自分たちも大丈夫だろうと思い込んでいた節があったようだ。‘赤信号、みんなで渡ればこわくない’ということだろうか。‘想定外’のおこるのが自然だという認識の欠如という他ないように思える。
 活断層の多い日本に設置されている原発にしろ、フォッサマグナという、東日本と西日本を分断する断層に乗っかっている南アルプスを貫くリニア新幹線工事にしろ、大阪湾を臨むところにあるゴミ廃棄物で埋め立てられた海抜ゼロメートル地帯の人工島に造られようとする巨大なIR施設計画にしろ、地震大国・災害大国なる日本において、‘想定外’の自然から目をそらして見切り発車しているように私には思えてならない。本当に大丈夫なのか、最悪の事態を想定するのが、防災対策のはずである。防災省設置法が国会で決まったが、名前だけの‘防災’にならないことを祈るばかりである。

1957年奈良県生まれ。1981年3月名古屋大学文学部卒。書店勤務ののち、1988年兵庫県浜坂町久斗山の曹洞宗安泰寺にて得度。視覚に障害を患い1996年から和歌山盲学校と筑波技術短期大学にて5年間、鍼灸マッサージを学ぶ。横浜市の鍼灸治療院、訪問マッサージ専門店勤務を経て、2021年より大阪市在住。
 仏教に限らず、宗教全般・人間存在・社会・文化・政治経済など幅広い分野にわたって配信しようと思っています。
このブログによって読者のみなさまの人生になんらかのお役に立てれば幸いです。
         神谷湛然 合掌。

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